施術の世界に身を置き、気づけば三十年という月日が目前となりました

その中で、レジェンドと称されるような先生方の名人技、達人技と呼ばれる技術も見てきました

技術の世界とは、まるで迷路のようで、一歩踏み込めば、際限のない探求が続いていきます

人間というものは、百人いれば百通りの技術があり、それらをひたすら追い求めるのは、技術を集めるコレクションへとすり替わってしまうもの

学びの目的が、技術という名の砂粒を集める技術の沼へと、足を取られてしまいます

東洋医学の基本となる古い書物(原典)を、そっと開いてみると、そこに具体的な「手技」や「テクニック」は、実はほとんど記されていません

代わりに書かれているのは、原理と原則、そして哲学のみです

『霊枢(れいすう)』という古典には、黄帝が「できれば、人に苦痛を与えることを少なくして治したい」という、切実な、しかし静かな願いが綴られています

そのために必要だと説かれているのは、道具ではなく、自然界の摂理であり、施術者自身の心根のあり方なのです

そして、厳しくも粗末な医者は道具に執着するが、真の医者は、道理(真理)によって治すのだと戒めています

多くの人々は、病を治すのは「医者と薬の力だ」と、外側に答えを求めがちです

しかし、身の内にある病を癒やそうと懸命に働いているのは、自身の奥底に眠る「治癒力」に他なりません

この大切な力が目覚めるためには、ただ横になって「治してもらう」という、受け身の姿勢だけでは、とうてい足りません

まず最初に手を付けるべきは「病と治療に対する、自身の認識そのもの」であり、この根底にある意識を変革することが、何よりも必要なことです

ですから、ここ最近、私は施術に入るよりも前の「問診」という時間を、最も重要視するようになりました

「治療をお願いします」と言われて、ただただ診察台へ誘うような、流れは過去のこと

時間をかけてお話を伺い、本当に今、この手技が必要なのかを、静かに見極める

必要があれば施術を行い、必要がなければ施術はしない

時には、別の方法を示唆することもあるかと思います

「痛くて来たのに、治療をしてくれないなんて」と、戸惑いや不満を感じるかもしれません

しかし、この問診という、意識を掘り起こす時間こそが、本質的な治療の一歩なのです

「また、変わったことをはじめたな」といった思いが過ぎる方もおられるでしょう

その固定された考えに、あえて一度、静かに立ち止まり、向き合ってみること

それこそが、あなたの身体に宿る治癒力を呼び起こす、最初の、そして最も大切な治療なのかもしれません

濤鹿堂

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